9月12日(金)、4回目となる銀座での講座が終わりました。
今回は9名の参加者を頂き、「職人の世界」と題し、
職人さんの歴史や、現在抱える問題をお話させていただきました。
ちょうどこのお話をまとめていた頃、福田総理の辞任。
参考文献に埋もれながら、職人の問題とこの辞任について意外な共通項を見出しました。
今回は現代社会への問題提起として、この12日の会のレジュメ+補足を以下のとおり発表させて下さい。
ティサネイア9月特別講座
職人の世界
さかえ屋呉服店
二代目 越智 香保利
1. 職人とは?
・ 職人と芸術家の違い
職人は「用の美」を作り出す。つまり日常品の中に美をこめる。
芸術家は自分の美の感性を日常品以外に具現化する。
2. 大量消費以前の職人の作られ方
「・・・技を習得することができる生き方を決める時代であったのである。職業を身につけるのに適当な年齢があって、その年齢は頭も体も若く、成長期以前であることが望ましかった。若い時代のすべてを学校での勉強にゆだねてしまった現在、手や体に技を記憶させる年齢は失われつつある。」
⇔
「身につけた技で生きるのではなく、会社に所属することが生きる道になってしまったのである。会社を運ぶこと、いい会社に入ることが生きていく一つの方法なのである。そのためには学歴が偏重され、修行元で学ははずのモラルや倫理や義理や思いやりなどを忘れてしまった。」(「失われた手仕事の思想」2001年 塩野 米松)
3. 職人が作成した品物の優位性
「丈夫さは欠かせない要素であった。丈夫さ、使い勝手、扱いやすさは機能美を生み出す。職人たちが作り出した一つひとつ製品に美しさを感じるのは、職人の美観もあるが試行錯誤が生み出した機能美である」(「失われた手仕事の思想」 塩野 米松)
「選ばれないことは恥」丈夫さ、使いやすさ、美しさに日々磨きをかける。単にきれいなだけではない!
4. 職人が抱える問題と提言
「そこで戦前のようにゆったりとかまえて、その支配下にある職人たちをある程度保護しながら生産させる、というような余裕はなくなってきた。そこで自然、職人と問屋の結びつきは、純粋に損得勘定だけということになる。どちらも利潤追求が第一となる。そうすればもうこれは伝統産業であろうと何であろうと、弱小生産者、弱小資本の商人の問題となってしまう。ごく一般的な中小企業問題に帰してしまう。高度資本主義の時代のなかだけに、その弱さが近頃いっそう強く表面化しているわけだ。」(「日本の職人像」吉田光邦)
<私の出合った職人さんの実状>
埼玉県無形文化財長板中型技法保持者 初山一之助さん親子 (2006年2月)
本場大島紬 経済産業省認定 伝統工芸士 重田茂和さん (2007年2月)
日本一の鼻緒すげ師といわれる 寺崎 隆一さん (2007年6月)
このうちお二人は自己破産されています。そして自己破産なされてない方は、アルバイトで生計を立てています。
職人としての作業を時給にすれば、500円以下!
5. 職人問題から見えてくる現代社会の問題点
「大量生産でできた安価で質の悪い品を使うことにより。
→修理のほうが高いため、壊れたら、古くなったらすてて、安いものを買い換える。→世の中には「大切に長い間使う」という発想がきえ、長い時間でものを考えるということが消え始める。
→
長い時間のもののみかたができないところに文化は生じない。国民に長い目で物を見、行く末の像を描く訓練がなくなると、そこから生まれた政治家や指導者もそういった資質を失っていく。」(「失われた手仕事の思想」加筆修正)
蓄積した経験が機能しない時代は、目的の見えない闇雲な変革をもたらすのみでは?
・・・いかがでしょう?
なんとなく今の社会の問題を見出した気分になりませんか?
また悩み多き社会のなか、以下の一文も心に残りました。
「
体や手記憶された技は忘れることがない。体や手はいったん覚えれば悩むことがない。手は疑問を持たない。」(「失われた手仕事の思想」 塩野 米松)
次回のティサネイア特別講座は、10月7日(火)「再検証!衣替え」です。
日本風土に合致しているはずの民族衣装・着物ですが、今では・・
詳しくは以下のサイトへ
http://www.santamarianovella.jp/2index/topics/1220353875.html